鈴木一世|Issei Suzuki
[Interview]
鈴木一世 インタビュー
Yellow Mixture Art
高校在学中から地元・仙台や東京のみならずニューヨークでも作品展示を行うなど、精力的に活動する鈴木一世。東北芸術工科大学に進学し、より表現に磨きをかけるその成長過程は注目され、期待を抱く声も多い。幼少期から常に描き続け、作品と共に進化し続けてきた鈴木の現在に迫る。
Q: 絵を描くことに興味を持ち始めたのはいつからでしたか?
絵を書き始めたのは幼少期の頃からで、幼稚園に行く前に一枚絵を描いてから行っていたというのはよく母から聞かされています。
Q: 子供の時は、どの部分が楽しくて描かれていたんでしょう。
当時は僕はスポーツがあまり得意ではなかったので、映画を鑑賞したり、映画のサウンドトラック音楽や、芸術的なものに興味があった子供でした。だから、必然的にクリエイティブなことに楽しさや喜びを感じていたのではないかと思います。
Q: 今はどういった目的で描いているのですか?
基本的に絵を描くとか、芸術を生み出すということが好きで、そこから本格的に現代アートあるいはファインアートの文脈を考えて、その時代を描写していくこと。また、美術史を学んだり、現代美術の流れを勉強するのが楽しくて描いている部分もあります。
Q: 今どんなコンセプトに取り組んでいますか?
ずっと自分の作品のテーマを模索していて最近考えたことなんですが、色んなメディアや情報を探りつつ「Yellow Mixture Art」というテーマに行き着きました。
「Yellow Mixture Art」というのは、Yellow=日本人のこと、黄色人種のことで、Mixture=色んなもの混ぜてということなのですが、そもそも日本の文化自体が中国からの文化とその他の文化を混ぜて自分の文化にしていたり、それも一つのミクスチャーだと捉えるところが起点になっています。
同時に、世界的に見た時に日本の立ち位置が非常に弱いと感じていて、例えば音楽や映画もそうだと思うのですが、外国の人に認識されていない部分が多いなと。自分はそのアートの流れに「日本人芸術」というものをムーブメントとして作っていきたい。
また、「Yellow Mixture Art」というテーマに加えて、曲線というもう一つのテーマで描いているのですが、曲線は自然的なものの象徴。その曲線の中にある直線が現代風刺をしていたりだとか。そういったビジュアルとしてのテーマもありながら、描いています。
Q: 「Yellow Mixture Art」を定義づける様々な要素は、作品のどんなところに見られますか?
「Mixture」の言葉の通り、いろんな要素、タッチ、表現で画面が構成されています。でもその表現も既存の表現ではなく、あくまでも自分が考えついたもの。既存のパターンであっても、それを一つの要素としてさらに自分の感性をミックスして描き、それらの要素で画面を構成していくことでさらにミクスチャーしていく。一つの画面にいろんな要素、情報や概念が混在している、といった感じです。
Q: 最近はどういったことにこだわっていますか?
これは2019年後半から2020年の現在描いている作品全てに共通することなんですが、背景でよくスプレーを使うことが多くなりました。この先もっと他の事もしていきたいなとは思っていますが、現段階ではスプレーを使用することでグラフィティ、ブラックアートへのリスペクトを込めています。
自分の中で、油絵を描いているというコンプレックスもあったんです。そのコンプレックスを盾に、油絵をヨーロッパ芸術へのリスペクトとしつつ、根底にあるものを否定していたり。
あとは、絵画史上よく現れるパターンを自分なりにオマージュして、作品に落とし込んだりもしています。
Q: これまで描いてきて、作風がご自身の中で変わるタイミングがあると思うのですが、どんなタイミングで変わっていることが多いですか?
作品を制作するにあたって毎回、一度自分の知識をリセットし、また違う観点もしくは着眼点で描く、ということを心がけています。自分も常に新鮮に感じる作品でないと、つまらないと思っていて。最近はそういうことが多いのですが、たまにその大きな出来事とか大きなイベントがあったりすると、改めて自分の作品を見直すことがあります。そういう時に少しづつ変わっていってるのかなと。鈴木一世という軸はありつつ、色んな時代やタイミングに合わせて少しづつ変わっていくように感じます。 作品を発表し始めたのが去年からということもありますが、高校入学時と卒業時の作品を見比べてみると結構違う部分が多いので、この先も進化していきたいと思います。
Q: 影響を受けている物やアーティストはいますか?
近代から現代の美術史や、アーティストたちが時代に投げかけた「問い」から影響されることはよくあります。
他には、結構キッチュな作品とか、ダダとか。大御所のアーティストでいうと、マルセル・デュシャンのテーマや考え方は、そこから発展したポップ・アートのムーブメントや、さらに発展したネオ・ポップなど、現代アートのベースになっていると捉えています。
それをベースとした時に、自分の作品はオリジナリティをメインにした作品だと思っています。テーマとしてそういう時代のテーマを意識して描いている部分はあり、現代社会を描写するために、近代芸術の手法からインスピレーションを得ています。
Q: 自分が気になっているムーブメントはありますか?
ムーブメントとはちょっと違いますが、1960年代に各国のアンダーグラウンドで起きていたこと、その作品に対する考え方や、精神性はすごく興味があります。
アンダーグラウンドをベースとして、そのポップさとか大衆性、キッチュなものとか、絵画的なものとか。それらを混ぜて描いていきたいと思います。
Q: 画材として敢えて油絵の具とアクリル絵の具で日本の現在を描く理由は?
油絵をメインで書いている時に、僕個人の感覚なのですが、ちょっとしたコンプレックスがあって。油絵というものが西洋文化の一部であるため、油絵のジャンルの中で日本人が西洋文化を描こうとしても、その「文化」を純粋に捉えて表現することに限界があるのではないかと感じました。
西洋文化と、日本のフラットなサブカル的文化、平面的といったデザイン的な要素を混ぜて、ミックスすることで新しい日本の文化を作る。
前提として、僕は日本の文化そのものがミクスチャーカルチャーであると考えています。だから自分の作品では、作品に対する考え方と構成によって、自分が捉えた日本の文化を描写しています。同時に、日本だけではなく世界のアートムーブメントや情勢をミクスチャーすることで、新たな文化、ムーブメントを作ろうとしています。
ただ、やっていることとしては、日本が日本画を生み出したプロセスとあまり変わらないことをしていると思います。
Q: 敢えてアートに取り組んでいる理由はなんですか?
僕がアートしかできないからということもあるのですが、他にも芸術がある中で、アートは良くも悪くも、唯一説明がないものだと思うんですよね。
良い意味では、ある作品を見た時に、100人いたら100人違う感想を持つと思うんです。その無限の意味合いを持てる可能性や、一つの作品でいろんな世界観を作り出せるのがアートだと思います。
悪い意味で言うと、わかりにくいからこそ現代アートってよくわかんないよね、という方も多いんじゃないかと思っています。作家の意図とかも伝わりにくいだろうし、そもそも現代アートは、その歴史を勉強しないとわからないものだからこそのそういう反応もあるのかな、と思います。色々な人が様々な意見を持つという自由さがアートのいいところであり、アートにしかできないものかなと考えています。
基本的に自分の作品に対しても、面白いねと言ってくださる方も多いんですが、これどうなの?と言ったご意見もあります。先ほど言った通り、多様な意見があるからこその面白さがあるので、自分の作品に対しても一人一人違う反応を頂きます。
特に自分が制作する作品は、具象絵画でもなく抽象絵画でもなく、ちょっと難しい立ち位置にある作品だと思うので、いろんな意見が飛び交うことは面白いですし、ありがたいなと感じます。
Q: これから大学ではどんなことをする予定ですか?
大学とかはあまり関係なく、次は画面における背景の可能性を研究していきたいと考えています。
作品を決定づけるものは何かを考えた時に、全部の作品のイメージが背景で決まってしまうくらい、背景の要素は大きいと考えています。
だから背景のパターンを増やしていくというか、背景をより時代に合わせていくと言うか…
自分が意志を持ってムーブメントを作りたいので、自分の作品のそれぞれの要素をその時代のムーブメントに寄せていく、ということは敢えてやらないように気をつけています。
背景で時代の流れを感じさせる作品を作りたいと思っているので、背景表現やマテリアルなどを研究したいと思っています。